セブ便り(第9回)「フィリピン海プレートがつくったセブの風景」

令和4年9月28日
セブ便り(第9回)「フィリピン海プレートがつくったセブの風景
 
 日本では、太平洋プレートやフィリピン海プレートなどのプレートの動きに着目して、いわゆるプレートテクトニクスの観点から、日本列島の形成を説明しようとする説が最近メディアで取り上げられています。
 よく報じられている説は、約300万年前に、南から北に移動していたフィリピン海プレートが、東側の太平洋プレートの力に押されて、北西方向に向きを変え、これが、東北地方から日本海溝までの距離を近づけ、東北地方の山地を隆起させ、九州から関東までの約1000kmに及ぶ活断層「中央構造線」を形成したというものです。
 また、伊豆半島は、約2000万年前には、現在の硫黄島付近の緯度に位置するフィリピン海プレート上の海底火山群でしたが、フィリピン海プレートとともに北に移動し、約100万年前に本州に衝突し、約60万年前に半島になったと言われています。
 しかし、日本の多くの方々は、フィリピン海プレートが日本列島にどのように影響しているかについては認識されていても、それがフィリピン諸島にどのように影響しているかについては認識されていないのではないでしょうか。
 
 フィリピン海プレートは、東側の太平洋プレート、西側のユーラシアプレート、南側のオーストラリアプレートに挟まれた、比較的小さい、菱形をしたプレートです。この菱形の左上の辺が日本列島の南西沖合(南海トラフ等)と接していて、この左下の辺がフィリピン群島の東側沖合(フィリピン海溝等)と接しています。
 
(世界のプレートとフィリピン海プレート)
USGS. (2012, August 7). Historical Perspective [Online Image]. https://pubs.usgs.gov/publications/text/historical.html
Credit: U.S. Geological Survey, Department of Interior/USGS
 
 フィリピン周辺に焦点をあてると、まず、太平洋プレートが、フィリピン海プレートの東端にあたる伊豆小笠原海溝に沈み込んでいることに気づきます。そして、フィリピン海プレートは、東側にある太平洋プレートの圧力を受けて、フィリピンの東側にある海溝、東ルソン海溝及びフィリピン海溝に沈み込んでいます。一方で、ユーラシアプレートもフィリピンの西側にある海溝、マニラ海溝、ネグロス海溝、コタバト海溝に沈み込んでいます。この東西2つのプレートの同時沈み込みが、日本とは異なる点です。
 
東西双方のプレートが沈み込んでいる地域は、フィリピンの大部分を占めており、フィリピン変動帯(又はフィリピン造山帯、Philippine Mobile Belt)と呼ばれています。当然のことながら、火山活動が活発であり、「ルソン火山弧」、「東フィリピン火山弧」、「ネグロス-パナイ火山弧」、「スルーザンボアンガ火山弧」の5帯に区分されています。1991年に、20世紀に陸上で発生した噴火としては最大の噴火をしたピナトゥボ火山は、「ルソン火山弧」に属しています。フィリピン全体では、84の火山が確認されており、そのうち22が活発に活動しています。
 
(フィリピン海プレートを含むプレートの移動図)
Simkin, T., Tilling, R., Vogt, P., Kirby, S., Kimberly, P., Stewart, D. (2006). Pacific Plate boundaries and relative motion. This Dynamic Planet: World Map of Volcanoes, Earthquakes, Impact Craters, and Plate Tectonics Third Edition. Retrieved from https://www.usgs.gov/media/images/pacific-plate-boundaries-and-relative-motion
Cartography and graphic design by Will R. Stettner with contributions by Antonio Villaseñor and edited by Katharine S. Schindler.
Credit: Smithsonian Institution, U.S. Geological Survey, U.S. Naval Research Laboratory, Jaume Almera, Institute of Earth Sciences, Spanish National Research Council
 
(フィリピンの火山)

Reference:Volcanoes of the Philippines. (n.d.). Retrieved from https://www.phivolcs.dost.gov.ph/index.php/volcano-hazard/volcanoes-of-the-philippines
 
  また、沈み込む2つのプレートの力によって、フィリピン断層(Philippine Fault)が形成されています。この断層は、ルソン島から中部フィリピンの東側、ミンダナオ島に至る約1200kmにも及ぶ大規模断層です。
 フィリピンは地震が多い国ですが、過去500年間の記録をみると、地震の多くは、フィリピン断層付近、または、プレートが沈み込む海溝付近、特にフィリピン海溝沿いとルソン島西側のマニラ海溝沿いで集中して発生していることがわかります。
 
(フィリピン断層)
Fig. 1. Tectonic framework of the Philippine archipelago. Red lines denote traces of the Philippine fault based on interpretation of aerial photographs whereas purple lines denote those based on interpretation of shaded relief and topographic maps. Red arrow indicates the left lateral motion on the Philippine fault. Red open stars show large historical earthquakes along the Philippine fault from Bautista and Oike (2000). Black lines with triangles denote subduction boundaries with arrows showing relative motion between the Philippine Sea plate and Sunda (Eurasia) plate from Seno et al. (1993).
Reference:
Tsutsumi, H., & Perez, J.S. (2013). Large-scale active fault map of the Philippine fault based on aerial photograph interpretation. Retrieved from https://www.semanticscholar.org
 
 以上のとおり、フィリピンのほとんどの地域は活発な地殻活動に晒されているのですが、セブ島とその周辺の島は、地質的には比較的穏やかな状態にあります。
火山は、セブ島の西隣のネグロス島(カンラオン火山)には存在しますが、セブ島には存在しませんし、フィリピン活断層も、セブ島の東隣のレイテ島を縦断しています。
 セブ島とその周辺の島は、数億年前までは、浅い海の底にあり、珊瑚礁に覆われていたようです。それが、地質年代の新第3紀(2303万年前から258万年前)の後半からゆるやかに隆起を始め、その隆起が最近まで続いたと考えられています。そのため、セブ島やその周辺の島では、全島で石灰岩(珊瑚礁などが堆積して岩石に変化したもの)がみられます。また、3m以下の浅瀬が海岸線から100m~200mにわたって広がっています。砂は、石灰岩や珊瑚礁が砕けたものなのでとても白いわけです。
激しい地殻活動を示すフィリピン変動帯の中にあって、セブ島とその周辺の島が、浅い海から静かに隆起して、美しいビーチと珊瑚礁をもって、世界中のダイバーを魅了しているのは驚くべきことですね。
 
(セブ周辺の島の美しいビーチと海)
 Langub Beach, Malapascua Island
Reference:Berida, Joshua. Photograph of Langub Beach, Malapascua Island “Best 15 Beaches in Cebu Philippines”. Guide to the Philippines. https://guidetothephilippines.ph/articles/islands-and-beaches/cebu-top-beaches
 
在セブ総領事 山地秀樹

 (参考資料)
「フィリピン諸島火山の地形発達と分類」 守屋以知雄、地学雑誌、123(1)89-122 2014年
「フィリピン群島の地質構造発達史」 鈴木尉元 地質ニュース413号、1989年1月号
「フィリピン共和国 震災等ハザード対策を通じた投資環境改善調査 詳細計画策定調査報告書」 国際協力機構 経済基盤開発部 2011年12月
(了)