セブ便り(第12回) 「シヌログ(ダンス)は400年以上もどうやって引き継がれてきたのか」
令和4年12月7日
セブ便り(第12回) 「シヌログ(ダンス)は400年以上もどうやって引き継がれてきたのか」
毎年1月の第3日曜日に、フィリピン最大級の祭りと言われるシヌログ・フェスティバルがセブで開かれます。参加者と観客の合計数は、コロナ禍前には400万人にも達したと言われています。この祭りで踊られているダンスがシヌログです。2歩進んで1歩下がるのを基本ステップとしています。シヌログということばは、「水のように絶えず変化する」という意味のセブアノ語sulogから来ているそうです。
シヌログ・フェスティバルが始まったのは1980年のことです。デイビッド・オディラオ、スポーツ青年開発省地域局長がシヌログパレードを企画しました。最初の企画には、7つの学校や大学が参加し、それぞれのグループが、植民地前の時代から現代にいたるセブの歴史を表現しました。シヌログ・フェスティバルは、その後、セブ市歴史委員会(その後、シヌログ財団)に移管され、フローレンティノ・ソロン・セブ市長の指導の下、更に発展していきます。
シヌログの起源は、植民化以前の時代にセブアノ人が動物などをかたどった木像の像を讃えて踊っていたことにあり、植民地化後に、木像の像がセント・ニーニョの像に置き換わったことだと言われています。
私の疑問は、シヌログの起源はわかったものの、植民地化直後の1565年から1980年までの約400年以上もの長い期間、シヌログはどのように引き継がれていったのだろうということでした。シヌログ財団関係者に会って、この疑問をぶつけてみたのですが、シヌログの原型は1565年のレガスピによるセブ来訪の際のセント・ニーニョの奇跡(原住民が焼き払った家の中に、マゼランが1521年に現地王フマボンの妻(フアン)に贈呈したセント・ニーニョの像が残されていたこと。)にあり、1980年からフェスティバルとなったとの型どおりの説明しか得られませんでした。
そこで、シヌログの研究者であるシーサー・ニモール博士(マティアス・アズナール医科大学准教授)を訪ねて、話を聞くことにしました。その結果いくつかのことがわかりました。まず、約400年間引き継がれてきたのは、シヌログではなく、シヌグと呼ばれるダンスだということです。シヌグには、主に2種類のダンスがあり、約400年前から連綿と受け継がれているのは「祈りのシヌグ」だということです。これは、セント・ニーニョ教会の前で蝋燭売りが蝋燭をもって行うダンスです。もう一つのダンスは、19世紀半ば頃に出てきたもので「戦いのシヌグ」と言われるものです。この「戦いのシヌグ」を引き継いできたのがトゥーラン舞踊団という団体です。
この「戦いのシヌグ」が、現在のシヌログにつながっていきます。シヌログ・フェスティバルを開催するにあたって、トゥーラン舞踊団を率いていたナン・ティタン・ディオラ女史がセブ医科大学に招かれてシヌグを教えており、これがシヌログのベースになります。
それでは、シヌグから派生した「戦いのシヌグ」と、現在のシヌログとの違いは何でしょうか。第1の違いは、シヌグでは、セント・ニーニョの像を持って踊ることはないということだそうです。像を持つことは神聖を汚す行為だとみなされているとのことでした。シヌグでは、セント・ニーニョの像を祭壇の上に置いて、その前で踊ることになっています。
第2の違いは、ダンスのシナリオです。シヌグでは、セブの原住民、モロモロと言われるイスラム教徒、そして、セント・ニーニョをもたらしたスペイン人の3つのキャラクターが登場し、原住民とモロモロの争いがあり、それがセント・ニーニョの力により和解するという筋書きになっているそうです。シヌログには、シヌグのようなシナリオはありません。
第3の違いは、テンポとリズムです。シヌログはシヌグに比べて、テンポが速く、リズムがいいです。踊っている人だけでなく、見ている人も引き込まれます。一方、シヌグのテンポとリズムは緩やかです。
シヌログは、見ても聞いても踊っても楽しいものです。シヌログは、シヌグの進化形であり、更に、進化を続けています。シヌログ・フェスティバルは、このダンスの進化とともに発展していくことでしょう。一方で、400年間以上もの間、守られ伝承されてきた伝統的なシヌグも忘れられるべきではないと思います。シヌログ・フェスティバル(1月第3週の日曜日)の翌週の月曜日に「戦いのシヌグ」が、市内のカーサ・ゴロルド博物館で披露されます。伝統的ダンスを保存しようという動きがあることを賞賛したいと思います。また、セント・ニーニョ教会の前で蝋燭売りが踊っている「祈りのシヌグ」についても、セブに訪れた際には是非注目してください。
(ニモール准教授には大変お世話になりました。同准教授は、近々、“Sinu’og - A Dance for all Seasons”というシヌログの本を出版される予定です。)
シヌログ・フェスティバルが始まったのは1980年のことです。デイビッド・オディラオ、スポーツ青年開発省地域局長がシヌログパレードを企画しました。最初の企画には、7つの学校や大学が参加し、それぞれのグループが、植民地前の時代から現代にいたるセブの歴史を表現しました。シヌログ・フェスティバルは、その後、セブ市歴史委員会(その後、シヌログ財団)に移管され、フローレンティノ・ソロン・セブ市長の指導の下、更に発展していきます。
シヌログの起源は、植民化以前の時代にセブアノ人が動物などをかたどった木像の像を讃えて踊っていたことにあり、植民地化後に、木像の像がセント・ニーニョの像に置き換わったことだと言われています。
私の疑問は、シヌログの起源はわかったものの、植民地化直後の1565年から1980年までの約400年以上もの長い期間、シヌログはどのように引き継がれていったのだろうということでした。シヌログ財団関係者に会って、この疑問をぶつけてみたのですが、シヌログの原型は1565年のレガスピによるセブ来訪の際のセント・ニーニョの奇跡(原住民が焼き払った家の中に、マゼランが1521年に現地王フマボンの妻(フアン)に贈呈したセント・ニーニョの像が残されていたこと。)にあり、1980年からフェスティバルとなったとの型どおりの説明しか得られませんでした。
そこで、シヌログの研究者であるシーサー・ニモール博士(マティアス・アズナール医科大学准教授)を訪ねて、話を聞くことにしました。その結果いくつかのことがわかりました。まず、約400年間引き継がれてきたのは、シヌログではなく、シヌグと呼ばれるダンスだということです。シヌグには、主に2種類のダンスがあり、約400年前から連綿と受け継がれているのは「祈りのシヌグ」だということです。これは、セント・ニーニョ教会の前で蝋燭売りが蝋燭をもって行うダンスです。もう一つのダンスは、19世紀半ば頃に出てきたもので「戦いのシヌグ」と言われるものです。この「戦いのシヌグ」を引き継いできたのがトゥーラン舞踊団という団体です。
この「戦いのシヌグ」が、現在のシヌログにつながっていきます。シヌログ・フェスティバルを開催するにあたって、トゥーラン舞踊団を率いていたナン・ティタン・ディオラ女史がセブ医科大学に招かれてシヌグを教えており、これがシヌログのベースになります。
それでは、シヌグから派生した「戦いのシヌグ」と、現在のシヌログとの違いは何でしょうか。第1の違いは、シヌグでは、セント・ニーニョの像を持って踊ることはないということだそうです。像を持つことは神聖を汚す行為だとみなされているとのことでした。シヌグでは、セント・ニーニョの像を祭壇の上に置いて、その前で踊ることになっています。
第2の違いは、ダンスのシナリオです。シヌグでは、セブの原住民、モロモロと言われるイスラム教徒、そして、セント・ニーニョをもたらしたスペイン人の3つのキャラクターが登場し、原住民とモロモロの争いがあり、それがセント・ニーニョの力により和解するという筋書きになっているそうです。シヌログには、シヌグのようなシナリオはありません。
第3の違いは、テンポとリズムです。シヌログはシヌグに比べて、テンポが速く、リズムがいいです。踊っている人だけでなく、見ている人も引き込まれます。一方、シヌグのテンポとリズムは緩やかです。
シヌログは、見ても聞いても踊っても楽しいものです。シヌログは、シヌグの進化形であり、更に、進化を続けています。シヌログ・フェスティバルは、このダンスの進化とともに発展していくことでしょう。一方で、400年間以上もの間、守られ伝承されてきた伝統的なシヌグも忘れられるべきではないと思います。シヌログ・フェスティバル(1月第3週の日曜日)の翌週の月曜日に「戦いのシヌグ」が、市内のカーサ・ゴロルド博物館で披露されます。伝統的ダンスを保存しようという動きがあることを賞賛したいと思います。また、セント・ニーニョ教会の前で蝋燭売りが踊っている「祈りのシヌグ」についても、セブに訪れた際には是非注目してください。
(ニモール准教授には大変お世話になりました。同准教授は、近々、“Sinu’og - A Dance for all Seasons”というシヌログの本を出版される予定です。)
(シヌログ・フェスティバル)


(左)Photo Credit: Sinulog Festival (Instagram). Retrieved from https://instagram.com/sinulogfestival?igshid=Nzg3NjI1NGI=
(右)Photo Credit: Sinulog Festival (Instagram). Sinanduloy Cultural Troupe in Sinulog 2020 Grand Champion, Sinulog Based Category. Retrieved from https://instagram.com/sinulogfestival?igshid=Nzg3NjI1NGI=
(シヌグからシヌログへの発展経路)


(シーサー・ニモール准教授)

(蝋燭売りと祈りのシヌグ)


在セブ総領事 山地秀樹
(了)