セブ便り(第13回) 「トライシクルのデザインはどうして島ごとに違うのか」
令和4年12月28日
セブ便り(第13回) 「トライシクルのデザインはどうして島ごとに違うのか」
着任以来7ヶ月が経過しましたが、この期間、不測事態の際の在留邦人の保護を州知事や市長に対し依頼するなどの用事のため、日本人が20名以上在住している州に出張する機会がありました。(いずれの知事や市長からも「電話一本もらえれば喜んで手助けしたい。」との回答を得ています。)当館の管轄地域(ビサヤ地域)の中で、日本人が20名以上在住しているのは、セブ州を除けば、西ネグロス州バコロド市、東ネグロス州ドゥマゲッティ市、イロイロ州イロイロ市、ボホール州タグビララン市、レイテ州タクロバン市です。
(ビサヤ地方(主要州別在留邦人数))


各地に出張していて興味深かったのは、トライシクルと呼ばれる屋根のあるサイドカー付オートバイのデザインが島ごとに異なっていることでした。なお、トライシクルは、タイのバンコクでたくさん走っているトゥクトゥクと呼ばれる三輪車や、ジープの後部を改良して乗り合いタクシーにしたジープニー(四輪自動車)とは根本的に異なります。
私が最もキュートなデザインだと思ったのは、タグビララン市のトライシクルです。写真のとおりですが、完全なスクエアではない、カクカクッとした面構成が人の心を楽しくさせると思いました。このデザインに関係している訳ではないのでしょうが、タグビララン市の通りを歩く人たちの表情には、余裕があり楽しそうです。
(タグビララン市のトライシクル)

ドゥマゲッティ市に出張したときには、同市の市長からトライシクルの木製模型をいただきました。模型のトライシクルは、四角四面のスクエアなデザインです。一方、街の中で見かけたトライシクルは、屋根の部分が丸みを帯びています。これだけでずいぶん印象が変わります。
(ドゥマゲッティ市長からいただいたトライシクルの木製模型とドゥマゲッティ市のトライシクル)


バコロド市のトライシクルは、主にフレームで組み上げられていて、そこに屋根だけを乗せているようなシンプルなデザインでした。
(バコロド市のトライシクル)

イロイロ市の最近のトライシクルは、新聞にも取り上げられたのですが、ご覧のような未来的なデザインです。報道によれば、これは、イロイロ州のアルトゥール・ディフェンサー知事によってデザインされたものだそうです。
(イロイロ市のトライシクル)

セブ市内では、トライシクルはほとんどみられませんが、セブ市北隣のマンダウエ市や南隣のタリサイ市では、まだトライシクルが多く走っています。
(マンダウエ市のトライシクル)


(タリサイ市のトライシクル。サイドカーの前部に2名、後部に後ろ向きで2名、ライダーの後ろに2名の合計6名が乗車できるようになっています。)


どうして島ごとにこんなにデザインが異なるのでしょうか。この答えを得るために、セブ市南隣のタリサイ市にあるトライシクルの製造業者フェンローズ・マーケティング社のロニー・バキュラオ社長を訪ねて、話を聞きました。
同社長の説明によれば、フィリピンでは、国の機関である運輸省陸運局の管区事務所の下に、各市の陸運事務所があり、この市陸運事務所が、総重量、座席数、風防ガラスの設置、風よけ及び雨よけシールドの設置、荷室の有無や位置等のトライシクル認可基準を定めていて、その認可基準が市陸運事務所毎に異なることから、トライシクルの製造業者はその基準に従わなければならず、結果として、島毎に異なるデザインのトライシクルが生まれたのだそうです。
同社長によれば、フェンローズ社は、かつて自社のトライシクルをミンダナオ北部に販売しようとしたのですが、イスラム教の影響が強い同島では、女性の足が見えてはならないとの基準があり、そのために、ミンダナオ向けのトライシクルには、サイドカーの後向き座席に、足を隠すためのカバーやゲートを取り付けなければならなかったとのことです。
タグビララン市やドゥマゲッティ市のトライシクルでは、風防ガラスが乗客だけでなくライダーをも覆うようなデザインになっています。これは、突然の大雨や飛んでくる昆虫からライダーを保護するための配慮だそうです。
同社長によれば、島毎に数社存在するトライシクル製造業者の製造技術、入手できる素材、製造コストなども、トライシクルのデザインに影響を与えるそうです。デザイン上の知的所有権は設定されておらず、他社のデザインをコピーできるそうなのですが、上記のような制約から、島が異なればデザインも異なることになるそうです。
日本人の感覚からすると、保安基準も含めた基準が国として統一されておらず、市毎に異なるというのは違和感がありますが、「島毎に文化がある。」と言われるフィリピンの島毎の多様性は、トライシクルの基準において見られるのですね。
(フェンローズ・マーケティング社のロニー・バキュラオ社長。後ろには、同社が作成したトライシクルが並んでいます。)


在セブ総領事 山地秀樹
(了)