セブ便り(第21回)蛍が明るく照らす島-シキホール州

令和5年8月16日
セブ便り(第21回)「蛍が明るく照らす島-シキホール州」
 
 7月13日から15日にかけて、シキホール州に出張しました。これは、セブ便り(20)の東サマール州ボロンガン市と同様に、シキホール州知事からの来訪招請をお受けしたものです。3月17日にジェイク・ビリヤ・シキホール州知事が当館を来訪され、日本人観光客にシキホール州に対して関心をもってもらいたい、まずは、総領事にシキホール州に来てほしいとの依頼をされました。日比間の観光促進は、両国関係の緊密化にもつながるので、招請をお受けすることにしましたが、私は観光の専門家ではありませんので、セブに在住する日本人旅行業者の方2名にお声がけし、日程を調整した上で一緒に訪問することにしました。
 
(シキホール州の位置)

 
 
 シキホール島は、セブ島の南端から南東約30kmに位置する周囲約100km、面積約340㎢の小さな島です。人口は約10万人です。シキホール島は、1892年以降東ネグロス州の一部でしたが、1971年に独立州になりました。主な産業は観光業で、2010年以前は貧困率が50%を超えていましたが、2023年にはそれが2.7%にまで減少しています。廃棄物の分別処理を州民が徹底し、廃棄物はほとんど出ていない(廃棄プラスチック類はまとめて東ネグロス州に移送しているとのこと。)とのことでした。
 
 1565年にセブ島を征服したレガスピの艦隊がシキホール島を探検した時、夜間にこの島全体が光を放っていたことから、「フエゴ島(火の島)」と名付けられました。実際には、島に多く生えているモラベ(Molave, クマツヅラ科の広葉樹)という木々に大量の蛍が群がっていたために生じた現象だったそうです。また、シキホール島は、フィリピン人の間では、魔法と魔術の島として知られているようで、薬草を調合して呪力を高めるという魔術師や霊媒師の集団がいるということでした。
 
 セブからシキホールに行くには、セブから東ネグロス州ドゥマゲティ市まで飛行機で移動(約30分)し、そこからフェリー(約45分)でシキホールに渡る方法と、セブから高速艇に乗り、ボホール州タグビララン市経由でシキホールに向かう方法(約4時間)があります。今回は後者を選択しました。しかし、熱帯低気圧のため海が荒れていて、タグビラランからシキホールには渡れず、タグビラランで一泊しました。結局、セブ出発からシキホール到着までに19時間近くかかりました。
 
 シキホールに到着後、シキホール州政府の観光担当者の案内で、半日かけて島の観光スポット、樹齢400年のバレテの木、1857年に建設されたセント・イセドロ・ラブラドール教会、カンブガハイの滝、サラグドオン・ビーチ、魔術師による癒やしの小屋を回りました。
 
(樹齢400年と言われるバレテの木)



(セント・イセドロ・ラブラドール教会)
 

(カンブガハイの滝)
 

 
(サラグドオン・ビーチ)


 
(癒やしの小屋)


 

 その後、州政府庁舎で、ジェイク・ビリヤ・シキホール州知事とサルディ・ビリヤ前州知事とお会いしました。サルディ・ビリヤ前州知事は、ジェイク・ビリヤ州知事のお父上で、昨年まで3期連続で州知事を務められた後、昨年5月から下院議員を務めています。私は、過去十数年間で貧困率が大幅に低下した原因について関心がありましたので、これを尋ねました。現州知事からは、欧米からのダイバーを中心とした観光客の増加が最も大きな要因であるとの説明を受けていたのですが、前州知事からは、「雇用を生むための様々な事業を行った。中央政府からのプロジェクトや支援も役に立った。」との説明がありました。
 
 このやりとりを踏まえて、2010年代の中央政府による政策が地方政府に与えた影響が大きかったのではないかとの印象を持ちました。2010年に大統領に当選したベニグノ・アキノ3世は、インフラ開発のために積極的な財政支出(2000年代にGDP比1.8%であったのが、2010年代にはGDP比5~6%に拡大。)を行い、女性や貧困層への支援を重視するなど社会民主主義的な政策を採りました。この路線は、2016年からのロドリゴ・ドゥテルテ政権、そして現マルコス政権にも引き継がれました。これが地方での貧困率低減に好結果をもたらしているのではないのでしょうか。このことは、東サマール州ボロンガン市を訪問した際にも感じたことです。
 
(州政府庁舎にて。中央がジェイク・ビリヤ州知事で、向かって右隣がサルディ・ビリヤ下院議員(前州知事)
 

 観光振興に関しては、一緒に訪問した日本人旅行業者は、シキホール空港がまもなく認可され、来年にも商業便が就航する見通しであることから、セブからの交通アクセスが大幅に改善することを肯定的に評価していました。
 
(認可を待つシキホール飛行場とターミナルビル)
 

 私は、蛍が集まるといわれるモラベの森林を保全して、清流を維持し、蛍が多く住めるような保護区を設置するのが良いのではないかと思いました。蛍が再び島を明るく照らすようになれば、それは、大きな観光資源になるでしょう。蛍の光が多数みられる静寂の空間は、もはや日本では見られないものとして、癒やしを求める日本人観光客にアピールすると思います。
 2000年以降のセブへの日本人観光客の増加は、ほとんどがジンベエザメのおかげだと言われています。ジンベエザメに触れるためならば、日本人旅行客は、喜んで、午前3時に起床して、4時間バスに揺られて目的地まで行くのです。日本人旅行客は、日本では見られないし経験できないものをフィリピンでの旅行で求めていると思います。私は、シキホールでの蛍の森は、セブでのジンベエザメに匹敵する効果を持つと考えています。
 
 私は、この考えを知事への礼状の中でお伝えしました。もちろん、実現には種々の困難が伴うものとは思いますが、シキホールが再び「蛍が明るく照らす島」になることができれば素晴らしいと思います。
 
在セブ総領事 山地秀樹
 
(了)